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マイク=メンツァー

マイク=メンツァーの高強度トレーニング

管理人訳

ボディビルの歴史において確立された高強度トレーニング法(high intensity training)は様々なバリエーションで実践されてきた。このトレーニング法はヘビーデューティー法とも呼ばれ、その内容が現代(2014年)では数々のネット記事で解説されており、また実践されている。その内容は、高強度トレーニング法の開拓者の1人であり最初期の実践者であるマイク=メンツァー(Mike Men-tzer, 1951–2001)が主著において描写していた型と大きく違っている。また、ネット上の解説を始めとして、メンツァーが意味していた「強度」に関しても、"heavy duty" という誤解を招く表現も手伝って、高重量や高負荷と取り違えられている場合が多い。メンツァーのこの主著の、高強度トレーニング法の具体的な実践方法を解説した章〔1〕を訳出し、このような誤解を正す一助としたい。

言うまでもなく、筋肉を大きくして力を付けるには、ウエイトを挙上せねばならない。ただ、ボディビルダー〔2〕たちが私によこす手紙で、どうすれば大きな腕・丸い胸・厚い肩等になるのかを尋ねているが、これを見るに、筋肉を大きくするにはウェイトをどのように挙上したらよいのか、どのようなワークアウトをすればよいのかというのが明確になっていない。
    本書の第4~10章を読めば、筋収縮の強度を増してゆくことによってのみ筋組織を作っていくのだということが明白に理解できているだろう。私が受けた数々の質問から分かるように、このような多くのボディビルダーたちには、どのように筋収縮の強度を増してゆけばよいのかが不明瞭である。不明瞭であるのは、一部には、intensity〔トレーニングの強度〔3〕〕という概念を多くの人が未だに十全に理解していないということによる。
    強度という用語は最近〔1970年代〕ではどのボディビル雑誌でも話題になっている。が、トレーニングの強度というものを正確に記述しているのはごく稀である。色々な記事を読んでみると、著者たち(には一流のビルダーも居る)は明らかにトレーニング強度をduration〔1回のトレーニングに費やす時間〔4〕〕と未だに混同している。その場合、まちがいなく、これらの著者たちは、トレーニング時間とトレーニング強度との基本的な関係が分かっていない。これまでに明らかになってきたであろうが、1つには、トレーニング強度とトレーニング時間は、互いに相容れない。筋肉がどの時点でも最大限の力で収縮しているという場合ににのみ最大の強度が得られている。どのトレーニングのどのセットのどのレップにあっても絶対最大の出力を要するというような場合には、こういったワークアウトの時間は短くならざるをえないし、短くなるであろう。換言すれば、筋収縮が高強度である場合には、その収縮の回数は少ないものになるということだ。
    つまりトレーニング強度が最大になるとトレーニング時間が限られてしまうのだ。マーカス=レインハート さらに重要なことに、最大の強度を下回ると、最上の結果を下回ることになる。アーサー=ジョーンズ〔5〕〕が以前、自分はトレーニングと筋肥大〔6〕をダイナマイトの棒と金鎚になぞらえたいと言っていた。金鎚でダイナマイトの棒を叩く際、軽く叩くだけなら、何度叩いても爆発は起きない。が烈しく叩くのなら、爆発を誘発し起こすには一叩きで十分である。
    ウエイトトレーニグで筋肥大を誘発する〔7〕のもこれと全く同様である。軽度または低度のトレーニングでは肥大は起きない。身体外形の特定の変化には、高強度トレーニングが必需であるのだ。高強度の刺激には量は重要ではなく、のぞましくもない。すなわち、ダイナイマイトを爆発させるには金槌で烈しく一回叩けばよいということだ。
    高強度トレーニングを行うと、低強度トレーニングからはまず得られないような身体への効果が得られるが、これは我々〔メンツァーとそのトレーニーたちのことであろう〕が体験してきたことである。トレーニング強度が異なれば身体への効果がどのように異なるか、これは次ページの強度連続体の表〔割愛。そもそもこの節の議論は導入にすぎず、さして重要でない〕を見れば分かる。この表では、純不活動の休息状態が一の極を成し、オールアウト〔8〕を招く筋力完全発揮が一の極を成している。両極における身体への効果は明白に全然異なっている。
    この表には、休息状態からオールアウト状態に至る間に身体に生じる効果を示す4つの指標しか見られない。他にもペーハー値や乳酸値といった指標が無論有るが、言いたいことは理解されただろう。
    どういったトレーニングであってもその強度を高めねばならないが、そのためにどういったトレーニング法または原則にも取り入れねばならない要素について、そのいくつかのものに第10章で言及した。挙上する重量、この重量を挙上するのに要する時間、セット間インターバルの時間が強度を決定すると述べた。ウエイトの移動する距離は、ウエイトの調整からは独立した(少なくとも通常の器材では)固定値だと言える。以下に述べるトレーニング原則は、以上の単純な諸特性を基礎としており、正しく用いれば、これらの原則は成功を約するであろう。

挙上不可能レップ〔9〕までトレーニングを行う

一旦学術的・理論的考量を度外視すると、いま述べている事は、単純に、ハードワークをするということであり、血のにじむようなオールアウトをするということである〔10〕マーカス=レインハートどのような筋力発揮であっても、最大出力を下回れば、ボディビルダーに一定の成果をもたらしはするが、オールアウトにおけるのと同程度にでは断じてない。また、私が "all-out effort" と言う場合には、倒れるまで無数にセットを重ねるようなマラソン式ワークアウトをするということを言っているのではない。
    筋肉の一時的挙上不可能〔momentary muscular fai-lure、MMFと略記する〕〔11〕の地点に達するまでトレーニングを行うというのは、この地点ではどれほど発揮してもあと1回をしっかり挙上することが不可能ということであるが、このようなトレーニングによってのみ、エネルギー蓄積を使い尽くすように体を強制することができ、本当の筋肥大を引き起こすことができる。筋肥大は容易なものではないこと、思い起こすまでもない。筋肥大というのは、文字通り強制してやるものである。任意のレップ数に達したからというだけでセットを終えていては、筋肥大はわずかに促進されるだけまたは全く促進されない。100ポンド〔約45kg〕の〔バーベル〕カールを10回できて11回はしないというのであれば、体には、変化する理由・筋肥大する理由が無い。体というのは常に既存の状態を維持しようとする。通常ではないことを課した時にのみ体は変化をする。これを理解するには生理学の知識は必要ない。
    MMFに達するまでセットを継続したら、限界突破点〔break-over point〕—セット内のこの発揮水準で筋肥大が促進され出す—を過ぎたことになる。限界突破点がどこかというと、最大出力の85%であるのか90%であるのかはっきりは分からないが、筋力を100%発揮するトレーニングを行えばこの地点に達するだろうとは明言できる。
    ウエイトトレーニングに取り組み始めたばかりの人には、慎重に行っていくようにと言いたい。今までにほとんど運動していなかったというのなら、ウエイトトレーニングは人生を変えることだろう。完全挙上不可能レップまでトレーニングを行うのは不必要で危険である。取り組みだしてから数ヶ月間は、適切なフォームを身に付けて自分の力の感覚をつかむようにしたい
    ウエイトに自信が付いてきて筋肉と筋力が付いてきた所で、アップ以外のどのセットもMMFに達するまで行うように。各種目で、ストリクトのフォームで6レップスが限度という重量を選ぶように。ストリクトのフォームで最大限のレップスというのは、正確無比な型で、伸展しきっている状態から収縮しきっている状態に挙上することがもう無理という地点までレップスを継続することを意味する。筋肉を最大限に肥大させたいのならば、必ず、この「挙上不可能レップまでトレーニングを行う」という方法に従わねばならない。マーカス=レインハート

事前疲労法〔12〕

上述のごとく、何があろうと、セット毎に一時的挙上不可能点まで行い強度の限界を突破する地点を通過せねばならないのであるが、しかしながら、こういったことは、2~3以上の筋肉部位を動員する種目においてその1つがいわゆる弱リンクに当たる場合には不可能である。
    例えば胸の通常のウエイト種目ではほとんどが上腕三頭筋を用いる。三頭筋は小筋であり、ゆえに弱く、胸筋を挙上不可能点まで追い込むのに妨げになる。インクライン〔プレス〕を200ポンド〔約90.7kg〕で6回できる場合、挙上をここまでに制限しているのは胸筋ではなくて、最初に音を上げる三頭筋である。
    通常のローイング・チンニング・プルダウンを行う広背筋のトレーニングにおいても似たことになる。こういった種目では上腕を屈曲するため、上腕二頭筋がいやおうなく用いられる。二頭筋は広背筋よりもずっと小さく弱い。二頭筋が先に音を上げてしまい、広背筋を最大限に追い込んで肥大を最大限に促進することができないようにしている。
    こういった事は、主働筋群をアイソレートで疲労させる種目を先に行うことで改善することができる。例えばケーブルクロスオーバー・ダンベルフライ・ノーチラスマシンのフライを用いて胸のアイソレートを行う。これらの種目の1つを挙上不可能点まで行い、即座に、協働筋(胸の場合には三頭筋)と胸筋を用いる種目に移る。三頭筋は、事前に疲労させた胸筋に対して一時的に優位を保つことになる。このようにすれば、胸のトレーニングの助けになるのであって、妨げになるのではないだろう。
    ただしこれはアイソレート〔単関節〕の第1種目とコンパウンド(とは、負荷抵抗〔resi-stance〕を挙上するのに複数の関節を使用する種目〕の第2種目との間にインターバルが全く無い場合の話である。マーカス=レインハート事前疲労法においては、事前疲労セットを終えた筋肉は、セットを終えてから3~5秒以内で50%にまで力が回復してしまうため、器材から器材に移動する時間以上の時間をくえば、効果が大いに減じられることとなる。
    事前疲労法を用いたトレーニングの例を挙げる:
<胸筋>
    フライ/ベンチプレス
    ケーブルクロス/ディップス
    ペックデック/インクライのプレス
<広背筋>
    ダンベルプルオーバー/バーベルロー
    ノーチラスマシンのプルオーバー/チンニング(リバースグリップで)
    ストレートアームのプルダウン/通常のプルダウン(リバースグリップで)
<三角筋>
    サイドレイズ/バックプレス
    ノーチラスマシンのサイドレイズ/ノーチラスマシンのプレス
<僧帽筋>
    シュラッグ(バーベル・ダンベル・ノーチラスマシンで)/アップライトロー
<大腿筋
    レッグエクステンション/レッグプレスまたはスクワット
<上腕三頭筋>
    プレスダウン〔プッシュダウン〕/ディップス
    フレンチプレス/クローズグリップ〔ナローグリップ〕のベンチプレス
<上腕二頭筋>
    バーベルカール/クローズグリップ〔ナローグリップ〕・リバースグリップでのプルダウン
    ノーチラスマシンのカール/リバースグリップでのチンニング
    :三頭筋と二頭筋のトレーニングでは胸筋と広背筋は弱リンクには当たらない。とはいえ、後二者を用いるコンパウンド種目において、アイソレート種目で疲労している前二者を追い込むことができる。
<事前疲労法の心得>
    1. 事前疲労のセットではレップスをやや少なめにする。事前疲労セットとコンパウンド種目セットで1つの連続セットを行っているからである。〔事前疲労セットで〕10以上のレップスは多すぎであり、息が上がってしまい、挙上不可能点に達するまで継続することができなくなる。ストリクトで6レップスがよい。
    2. 事前疲労法を用いたトレーニングは2つ以上は行わないように。
    3. 初級者には事前疲労法はどうしても必要とはいえない。中級・上級のボディビルダーは、事前疲労セットと本番セットのどちらか或いは両方でフォーストレップスとネガティブのレップス〔後述〕を行ってよい。
    4. 事前疲労法なり他の方法なり、それらに拘ることが無いように。事前疲労法は各部位1週間に1回で十分。

ピークコントラクション法

筋のサイズと強さを最大限に増進する上では筋収縮をより強くしていかなければならないため、以下の条件を満たさねばならない:(1)筋繊維は全長を減少させながら収縮する〔短縮性収縮のことであろう〕。よって全部の筋繊維を同時に収縮させるには、筋肉は、収縮しきったピークの位置になければならない;(2)全部の筋繊維を同時に収縮させるには、全部の筋繊維を活性化する十分な負荷を加えねばならない。
    強い負荷抵抗に対して筋肉がフルレンジ(伸展しきっている状態から収縮しきっている状態)で稼働する〔moves […] through a full range of motion〕際には、ピークの収縮に至るまでの間に稼動筋繊維の数が増えてくる。ピークまで収縮すると稼動が不可能になり最多数の筋繊維が活性化している。ピークまで収縮するという原則は、負荷抵抗がピーク収縮の位置において加えられているというトレーニングにあって意味を有する。ピーク収縮の位置は、全種目のレンジにおいて最重要の位置である。
    ピークまで収縮する上でどの種目を選ぶとよいかというと、収縮しきっている位置で重量を保持するのに力を抜けないという種目を選ぶとよい。通常のバーベルカールは(傾斜を付けない限りは)不適切である。バーベルカールでレンジの中間点を通過すると、効果的な負荷抵抗が急激に落ちるからである。レッグエクステンション・三頭筋のプレスダウン〔プッシュダウン〕・チンニング・種々のノーチラスマシン種目といったものは、収縮位置で負荷抵抗を加えるものであり、重量が十分に有れば、高い収縮強度を実現する。トレーニングルーティンを組む際には、各部位最低1種目はこの原則による種目をおこないたい。

フォーストレップ法

トレーニングをよりハードに — より長くではなくて、各瞬間をよりえげつなく — するようなことは何であっても強度を高めてワークアウトの効果を高める。マーカス=レインハートストリクトではいかにしても挙がらないという挙上不可能点に達したら、パートナーの補助で2~3回の強制挙上〔forced reps〕を行いさらに強度を高めるのである。ほとんどの場合、重量は変えずに、血のにじむオールアウトにつながるレップを挙げるだけの補助を得るのが最も好ましい。
    重量を減らしてさらに何回か挙げるというのは是か非かと多くの人から手紙で質問を受けているが、これは非であり、重量を大幅に減らすと、次のレップは最大限の・オールアウトの筋力発揮を要しなくなってしまい、補助を得る直前に自分で挙げた最後の1回のときの強度を下回ってしまう。重量は変えず、気の知れているパートナーからの十分な補助を得る、これによって強度を高める。〔13〕
    強制挙上は初級者にはどうしても必要ではない。理由は既述。中級者は、事前疲労法の際にアイソレーション種目かコンパウンド種目のどちらかで強制レップスを行うように。上級者は両種目で強制レップスを行ってもよいだろう。ワークアウト毎に強制レップスを行うのは特に中級者には勧めれない。中級者は、各部位をポジティブ挙上での挙上不可能点〔"positive failure"〕まで行い、次のワークアウトでこれに強制レップを加え、その次のワークアウトでネガティブ挙上での挙上不可能点〔"negative failure"〕まで行うように。
    上級のボディビルダーは、さらに高い強度が必要とし、〔高強度への〕身体の要求に応えようというのなら、以上のこと〔直前に述べている3つのワークアウトのことか〕を直ちに行うように。上級者にあっては、ストリクトのポジティブ挙上を6レップス+強制レップスという型を離れたい場合があるだろう。上級者は筋のサイズも力も相当有り、非常に重い収縮を行うとなると、心肺機能その他に多大な負担がかかるため、ストリクトのポジティブ挙上を4レップしかできない重量を使用したい場合があるだろう。マーカス=レインハートこういったことは各人の判断にゆだねることとする。

ネガティブレップ法

ヒトの骨格筋の力には3つの型があるということを想起されたい:
    1. ポジティブの筋力またはウエイトを挙上する力〔14〕
    2. 静的な〔static〕筋力または保持する上での筋力〔15〕
    3. ネガティブの筋力またはウエイトを下ろしてくる力〔16〕
    筋はポジティブ動作において最も弱く、ネガティブ動作において最も強い。ウエイトを下げる力をも消耗しきってしまわない限り、挙上不可能点までトレーニングをしたとは言えないこと、これは明白である。ポジティブを6レップスと強制を2レップス — を行うことでポジティブの筋力と静的の筋力とを消耗しきる — 終えてからはウエイトを下ろすレップスを続ける、こうしてのみ、本当の十全なMMFの地点に達する。
    ポジティブを6レップスと強制を2レップス終えたところで、パートナーにウエイトをトップ(またはピークの収縮位置)に挙げてもらい、ウエイトを下ろしてこれるようにする。この動作を、ポジティブの挙上不可能点に達してからも行える自分に驚くものだ。このネガティブでは最初の数レップスは楽なものに感じ、低速で下ろしてこれるのだが、その次の2レップスが厳しいものになる。下ろすのが速くなってしまい、制御が悪くなる。
    ウエイトを下ろす動作が制御しきれなくなった所でセットを終えたい。或いは、筋収縮位置から高重量を下ろすのに勢いが付いてしまうと〔負荷部位に〕危険が生じるため、制御しきれなくなる前にセットを止めてしまいたい。大腿のような強い大筋を使用する種目ではごく慎重でありたい。この方法で〔ネガティブの制御が無くなる前後までセットを継続するという方法で〕スクワットを行うのは明らかに危険であるため止しておくように言いたい。レッグエクステンションですら危険でありうる。
    ポジティブの6レップスに使用しているウエイトでは、これに続くネガティブには軽すぎることが分かるだろう。その場合には、ウエイト下ろすのにパートナーに手で加重してもらうことになる。ネガティブ動作の際には、ウエイトを下ろす動作の最中にぜったいに止めてはならない。膝〔関節〕は脆いものであり、最大のネガティブ負荷抵抗と取り組んでいる際に止めてしまうと、膝を大怪我する可能性がある。
    ネガティブレップ法は中級・上級者向けの高強度トレーニングであり、初級者は行わなくてもよい。ネガティブはいわゆる純粋型で行ってもよく、すなわちポジティブレップスと強制レップス無しで行ってもよい。普段ポジティブレップス時に用いる重量を最低40%は上回るウエイトを用意し、補助者にこれを挙げてもらい、制御を失い出すところまでこれを下げるレップスを継続する。補助者には注意をしてもらい、合図をすればすぐにウエイトを支えてもらえるようにする。
    ワークアウト全体をこのようにネガティブのみで行ってもよいし、上で解説したようにポジティブレップスと強制レップスと一緒に行ってもよい〔17〕。〔こういったバリエーションに関しては〕その時その場に応じて創意工夫されよ。例えば、事前疲労法において、アイソレート種目ではポジティブ・強制・ネガティブを行い、コンパウンド種目ではネガティブのみを行うというのもよい。
    以上述べてきた手法には組み合わせが無数に有り、同一の型のワークアウトが無いということになってもよい。毎回のワークアウトでネガティブを行うというのは勧めたくない。ネガティブレップ法は強度が高く、オーバートレーニングを招くおそれがある。

レストポーズ法

強度という梯子を昇ってゆくにつれ、さらにえげつないトレーニングが必要となってくる。上級者にとって問題となるのは、筋サイズと筋力が高度に成長するという身体変化がなくなってくるということだ。継続的に高強度に収縮する筋肉に大きなサイズと力が備わっていると、酸素負債が増加し、老廃物が生産されてしまう〔[…] creates a profound oxygen debt and waste pro-duct buildup〕。事実、筋肉を最大限に稼働させるワークアウトでは、酸素摂取量が30倍に上昇するという。ところが、筋収縮の強度が高くなっているため、血流 — および、伴う酸素供給 — が減少してしまう。そうして、収縮と収縮の間に血管系を充填するために各収縮間(レップス間)に時間をおかなければならなくなる。そこでレストポーズ法が考えられるのだ。
    この他にレストポーズトレーニングを支持する科学的証拠としては、EdingtonとEdgertonによるBiology of Physical Activityという題の優れたトレーニング生理学教本に求めることができる。ここには、「収縮の強度が高い場合、収縮時間が短く弛緩時間が長ければ、筋肉への血流は増加しない」とある。
    レップス間に10秒の休止を置くことで、ボディビルダーは、高強度の筋収縮を継続してゆく上での能力の低下を克服することができる、このレップス間休止〔rest-pause〕によって、稼働筋に血流が燃料を運び、同時に筋から代謝産物を除去する。この手法を用いるにあたって、私は、特定の種目で1回の挙上が限度である重量を選んだ。この1回を終えると、ウエイトを置き、10秒休止し、次の1回を挙げるということにしていた。2レップ目か3レップ目では重量を10%減らすかまたは〔減らさずに〕補助をしてもらうかして挙げるのが普通だった。
    各種目で1セットは4レップスとしていた。1部位につき3セット以上は行わなかった。レップス間の休止を最初は15秒にしてみた。次は7秒休止してみた。15秒は長すぎで7秒は短すぎだと判った。1セットを6レップスにしてみたことがあるが、これはキツすぎて即オーバートレーニングになりそうだった。レップス間に10秒の休止を挟んで4レップス、これを行って、全種目で、ワークアウト毎に最低20ポンド〔約9.07kg〕増加し、最終的には全種目で66%の重量増加を見た。もちろん筋サイズも増加していた。
    初級者と中級者はこのトレーニング法を、後年それが必要になる時までは行わないように。上級者は、レップス間休止と私が行ったレップ数〔4レップス〕を試行する気になるだろう。ただし銘記されたいのだが、このトレーニングは、これまでに考案された中で強度が最も高い・最もえげつないトレーニングの1つである。セット数を少なめに抑えて、それで効果が急激に現れはしないという時には、マーカス=レインハートとStephan Deiningerこの高強度負荷トレーニング〔intense form of stress〕を行う身体能力を超過してしまっており、オーバートレーニングに陥ってしまっているのだ。他の1セット1レップ限界トレーニングと異なり、レストポーズ法では1セット内の各レップが1回限度レップになっているということを理解せねばならない。このような労力では見返りが大きいゆえ、非常にキツいこととなる。健闘を祈る。

パーシャルレップ法

ビルダーを目指す者は、その労苦が筋肥大と筋力アップという一定のフィードバックをもたらすようにとトレーニング生活を継続する。その際、パワーラック内で行う基本種目に、高重量による、フルレンジのレップ及びパーシャルのレンジを行うということが考えられる。
    上級のビルダーは、コンテスト出場も考えられる十分なバルクが有り、全体のバルクアップにそれほど悩むことは無い。上級者の関心は、辛苦の果てに得た基礎のバルクをより完璧にするために、不足を補い、弱点部位を全体に釣り合うようにするということである。上級者らには、パーシャルレンジにはもっと特別な意味がなければならない。コンテストに出場できる水準に達しているビルダーは弱点部位を痛感している。大多数のビルダーが、弱点を克服するのに、ふだんのメニューに種目と・セット数を追加しているだけであるが、これは気持ちとしては分かるが方法としては誤りである。ビルダーというのは大多数がオーバートレーニング状態であって、このようにトレーニングの量〔Volume of training 〕を増やしたとすると、強度が必然的に低下する上、筋回復が沈滞し、成果が乏しくなり、不満が蓄積され、トレーニングを断念することにもなりかねない。
    弱点部位を克服する上で適切な方法は、トレーニング量を増やすことでは勿論なくて、筋稼動の強度を増大させることである。強度を高めるにはワークアウト時間を短くせねばならず、そうしなければ筋肥大は促進されない。強度出力をすみやかに高めるための極めて効果的な方法として、私が考えるのが、一の種目において、同種目のフルレンジ動作で用いる重量をはるかに上回る重量を用いるパーシャルレップ法原則である。この方法においては、当該種目の半分の可動域〔mid-range〕から、つまり中途の地点から〔全体に対しての〕部分的な挙上を行う。いかなる種目においても、扱う負荷抵抗の量は、関節可動域〔range of motion〕の最弱ポイントによって制限されてしまっている。例えばバーベルカールの挙上ではミッドレンジが最も困難なポイントである。ところが、〔肘関節を支点とするカールの〕テコの力は可動域全体を通して変化してゆき、バーベルウエイトからの負荷抵抗は可動域の中間点〔midpoint〕で極に達し、そこを過ぎると急落する。カールの可動域の中間点は最弱の域〔つまり最も挙上に困難を感じウエイトからの負荷抵抗が重くのしかかる域〕であり、扱える重量はこの中間点で発揮できる筋力〔midrange strengh〕に制限される。
    特定の種目においてどの程度の負荷抵抗を扱うことができるか、これは可動域の中間点までしか動作しないトレーニングで克服することができる。扱うポンド〔=重量〕ならびに効果を及ぼす過負荷が劇的に伸びる。私は、弟のレイ=メンツァーをパートナーとしてミスター・ユニバースに向けてトレーニングをしていた時期に、ややクローズグリップ気味で、インクライン〔ベンチ〕プレスの可動域中間点からの挙上〔half-reps〕を行ってみた。こうして大胸筋上部という自分の弱点部位の補おうとした。普段プレス種目はフルレンジでは315~365ポンド〔約143kg~約165.6kg〕で行っていたが、ミッドレンジだとインクライン〔ベンチ〕プレスは405~455ポンド〔約183.7kg~約206.4kg〕で行うことができた。かような過負荷によって大胸筋上部への強度が高まりすみやかに筋肥大が起きた。どの種目でもそうだが、こういったミッドレンジでの挙上は、普段行っているフルレンジでの挙上に追加的に加えたものにすぎない。ミッドレンジの挙上は、1部位につき2セット行っていた。フルレンジの挙上を行わないのは誤りであって注意されたい。全き成長をとげるには、フルレンジとミッドレンジとの両方ともが絶対に必要なのである。
    私と弟はさらに上腕二頭筋と大腿の成長のためにミッドレンジのトレーニングを行った。二頭のいつもの最大強度のフルレンジ挙上を3セット終えたら、我々は、スコット(プリーチャー)カールのバーを通常のフルレンジ用150ポンド〔約68kg〕からミッドレンジ用220ポンド〔約99.8kg〕に増やしていた。スコットベンチを地面に対して垂直にして、負荷抵抗が挙上のトップ位置で抜けてしまわないようにした。我々の片方が220ポンド〔約99.8kg〕を可動域の中途の地点まで下ろし、片方がバーを手で止める、或いはこのとんでもない重量を挙げれるように僅かに一押しする。ウエイトが挙がり出したら補助は無し。このオールアウト方法では5レップスが限度だった。以上の仕方でセットを終えると、倒れこんでしまわないように、すぐさま座りこんだものだ。大腿のトレーニングでは、レッグエクステンションから即座にレッグプレスという事前疲労法を用いた典型的な種目を最大限に行っていた。我々はパワーラック内でミッドレンジのスクワットを1~2セット800ポンド〔約362.9kg〕まで上げて行った。
    パーシャルレップス原則は、遅れをとっている部位ならどれにでも用いてよい。レイと私は胸・大腿・二頭に用いた。当時はこの部位が若干仕上がりに欠けているように思えたからだ。もう一度強調しておくが、パーシャルは、普段行っているフルレンジでの挙上に追加的に加えた場合にしか効果が無い。パーシャル〔"it" と書いてあるが、文脈上、前文の複数名詞 "partials" を受けていると解する〕は遅れをとっている部位に過負荷を加え、すみやかに効果を現すのであるが、これは、やりすぎない場合に限る。パーシャルレップ法は遅れをとっている部位にのみ行うこと。1部位1セットを超えない1種目のみにすること。パーシャルレップス原則は、適切に実践すれば、やる気と進歩に火を付ける着火剤になる。全力で取り組めば成果は上がるであろう。

マーカス=レインハート

静的収縮法

技術の観点からはボディビルダーというのはボディビルダーであってウエイトリフターではない。ボディビルダーの主目的は高重量を挙上することそれ自体にではなくて、筋肥大を最も促進する手段として高強度の筋収縮を行うことにある。たしかに、筋肉をより大きく発達させるにはより力を付ける必要がある。がこれがボディビルダーの主目的であるのではない。ボディビルダーが重量を増やしてゆくのは、ワークアウトの強度〔stress (intensity)〕を高めてゆくためである。このことは筋サイズの発達の必須条件である。つまりボディビルダーにはウエイトの挙上は手段であって目的ではない。
    実りあるボディビル・トレーニングを科学する上では、高強度の・限度一杯の〔full〕筋収縮について研究し理解せねばならない(同一性の原則〔18〕)。筋組織の研究によって、筋肉が力を発揮するのは収縮すること(全長を短くすること)によってであり、筋は1か0かの原理で〔in an all-or-nothing fashion〕収縮するということである。これすなわち、負荷抵抗を動かすのに必要なだけの数の筋繊維が動員されるということであり、これらの筋繊維は100%の収縮力で収縮するということである。つまり、特定の筋肉では筋繊維全部が若干収縮するというのではない。そうではなく、筋繊維全体の内必要とされる割合が収縮するのであり、これらの筋繊維の収縮はその時の100%の力によるものであるのだ。つまり1か0か〔all or none〕ということだ。
    筋肉は収縮することで力を発揮するのであるから、筋肉がフルに収縮できているであろう位置は、フルの収縮位置なのであるが、これは、フルの収縮位置で十分な負荷抵抗が加えられている時に限る。筋肥大を最も促進するには、筋肉は最大限かつ高強度の収縮を行わねばならない。筋肥大を最も促進するには、カールのトップポジションや、直立時の脚や、レッグエクステンションで膝がロックしている位置や、プルダウンまたはペックデックでの収縮位置やといったフルの収縮位置に在る筋肉にフルの収縮をもたらす十分な負荷抵抗を加えるに如くは無いであろう。ボディビルダーは、ウエイトの挙上だけに自分を制限せねばならない訳ではない。どの骨格筋にも3段階の筋力が有るというこを想起されたい。これの第2位が静的筋力、すなわち関節可動域のどの位置(例えばトップのフルに収縮した位置)においてもウエイトを保持する筋力である。静的収縮時の力はポジティブの力よりも相当に強い。
    筋肥大の促進の度合は、〔身体の〕機能力〔functional ability〕にどの程度の侵害〔in-road〕を加えたかということに左右される。ポジティブで挙上不可能になったところで、機能力への侵害は3分の1しかなされていないと言えるだろう。すると3分の1だけ筋肥大を促進したということになる。フルに収縮した位置で静的保持不可能〔static failure〕至るまでウエイトを保持し、それから1レップのネガティブを行う。こうすることで機能力への侵害がより程度を増し、筋肥大促進がより程度を増す。とはいえ、機能力への侵害がより大きい場合には、筋回復力への侵害も大きいということであって、セット数を減らして、大きな侵害に対する補償を確保せねばならない。
    ジム内での顧客に私は、ポジティブの挙上不可能まで動作を行うのから、フル収縮の位置で保持不可能になるまでウエイトを保持し然る後ストリクトの動作でネガティブを行うというのに見方を変えてもらっている。その理屈は、フル収縮位置はフル収縮が行われうる唯一の位置であるのだから、またこの位置で扱える重量はより弱いポジティブ動作でこの位置までどれぐらい挙げれるかにかかっているのであるから、挙上をそもそも止めてしまおうということだ。私が顧客を補助して、ポジティブで扱うであろう重量よりも重いウエイトを収縮位置まで挙げてもらい、保持不可能地点に達するまで保持してもらい、静的筋力を消耗してもらう。次に、静的筋力が限界に達したと思った所で、制御しつつ低速で下ろしてくるネガティブを行ってもらう。
    ジム内での顧客の中には、レッグエクステンションで進展を見た人があって、この人はごく短期間に、ポジティブ7回を190ポンド〔約86.2kg〕で行っていたのがポジティブ14回を250ポンド(ウエイトスタック一杯)〔約113.4kg〕で行うようになっていた。ワークアウト3回に渡って250ポンド14回で停滞していた。そこで私は、250ポンドを脚を伸ばして膝をロックして保持不可能になるまで保持しそれから低速で下ろすという脚のワークアウトを3回行ってもらった。第1回目では膝ロック状態で15秒保持できていたところ、2回目では22秒、3回目では30秒だった。この次の脚のワークアウトの時には、桁上がりが見られるかどうか、普通のポジティブを行ってもらった。するとポジティブのフルレンジを20回行うことができたのだった。著しい成長であった。
    現在では私はほとんどの顧客に、可能な種目で、限界までフル収縮で静的保持をたもって即ネガティブという方法を行ってもらっている。そうして見られる成果は控えめに見ても驚くべきものである。こういった著しい進展は、一部には、既存の筋力に対して、ポジティブを行うよりも大きな侵害となるウエイト保持によるものであると考えている。ポジティブの挙上不可能に達するまでの従来の高強度トレーニングでは、既存の筋力への侵害が、より重いウエイトで保持不可能まで行うセット(とネガティブ)と比べると名ばかりである。その理由はというと、上述のように、ポジティブ(あるいは挙上)の筋力は最も低く、ポジティブの挙上不可能点まで行ったところで、静的筋力とネガティブの筋力が著しく手つかずであるからだ。
    ピークコントラクションの原則と同じく、静的保持+ネガティブという方法が最も功を奏するのはアイソレートのトレーニング、回転軸を中心にした円軌道を描くアイソレートのトレーニングであり、このトレーニングではフル収縮の位置で負荷抵抗が加えられる。例えばペックデック・マシンサイドレイズ・レッグエクステンション・レッグカール・カーフレイズが有る。私が静的保持トレーニングを行っていた種目でコンパウンドのものは、HITとkakaリバースのクローズグリップでのプルダウンだった。最上のマシンはノーチラスで、ノーチラスのマシンはフルレンジの種々の負荷抵抗を加えるように設計してあり、フル収縮位置で最大の負荷抵抗が得られる。フル収縮の保持を顧客に行ってもらっている種目ほとんどで、重量は私が選択し、フル収縮位置で上半身は最大8~12秒ほど、下半身は15~30秒ほど保持をできるウエイトを扱ってもらっている。保持の後には低速・ストリクトにウエイトを下ろす。
    初めの頃は保持とネガティブを2セット行ってもらっていたが、現在では1セットの方が好ましいことが分かった。また、時には、ポジティブ無しの保持セットよりも、顧客らのワークアウトに変化を付けて、ポジティブでの挙上不可能レップまで行ってからすぐに限界までの保持というセットを行ってもらっている。この方法は大変成果を挙げている。
    以上の高強度トレーニング用のトレーニング原則を適切に進めてゆくことで、ワークアウト毎に強さが付いてくるだろう。こういった進歩の日々にあっては、遺伝的素質の上限に達する時まで向上し続けたいものである。

▲冒頭

〔1〕Mentzer, Mike / Little, John: High-Intensity Training the Mike Mentzer Way. Part III. Derivatives. Chapter 11. A compendium of high-intensity training principles. McGraw-Hill 2003. S. 85–102. (ISBN-10: 0071383301 / ISBN-13: 9780071383301.) 本章(および本書)に掲載している数点の図表と、メンツァーを映しているおびただしい数の写真は、訳出にあたって全て割愛している。

〔2〕メンツァーは、単にボディビル行為をおこなっているだけの人をも一般的に"bodybuilder[s]"と表記しており、日本語で「ボディビルダー」と言うときに連想されるような人々だけを指してはいない。訳文もこれに倣いつつ、一流の、日本語で「ボディビルダー」と言うときに連想されるような人々を意味しているときには「ビルダー」という訳語を充てることにする(がこれも原語は "body-builder[s]")。

〔3〕メンツァーは、ウエイトトレーニング行為において激しい消耗を起こす運動全体を意味するのにも、オールアウトに達する所のセット全体を意味するのにも、特定の筋収縮時の筋力の度合いを意味するのにも、一律に "intensity" という語を用いているが、訳文では意味に応じていくつかの訳を使い分けることとする。

〔4〕この語も、文脈によっていくつかの日本語に訳し分けることにする。

〔5〕Arthur Allen Jones (1926–2007)。高強度トレーニング法の主導者。Nautilus社のウエイトトレーニングのマシンの発明者。1973年に、高強度トレーニング法とノーチラスのマシンを用いてケイシー・ビエター(Casey Viator (1951–2013))を被験者とした高名なコロラド実験を行い、このトレーニング法の効果を示す驚異的な結果を出したことでも有名。

〔6〕原語は "muscle growth" であるが、メンツァーが "growth" と言う場合には、ボディビルという文脈上、常に、「筋肥大」の原語であるmuscle hypertrophyを意味している。

〔7〕筋肥大の誘発または促進という意味の "stimulate" もキータームであるが、筋肥大を誘発する刺激の方もまた "stimulate" と表現されている。やはり文脈によって訳し分けている。似た意味として "enhance” も時に見られる。

〔8〕メンツァーの文章では "all-out" は "effort" と組である。その場合にも「オールアウト」と訳す。その他の場合の "effort" にはいくつかの訳語を充てた。

〔9〕このように訳した "failure" は、1のセットにおいて挙上ができないレップのことを言うが、単なる「失敗」ではなくて、レップの限界に達したために挙がらなかったというオールアウトの証左を意味している。"failure" にも、メンツァーの議論に沿う限りで、「挙上不可能レップ」以外の訳も様々に充てている。なお本文ではフォーストレップ法の節で "positive failure" という表現をしている。この語句は極めて有名であるが、メンツァーが意味しているのは、"positive" すなわち短縮性筋収縮(concentric contraction)において挙上不可能に達するということである("positive" の意味を取り違えて「良い意味での失敗」だとかといった意味だと解している人間がいる)。また"negative failure"という表現も同所に見られる;文脈から、明白に、これは伸張性収縮(ec-centric contraction)において挙上不可能に達するということを意味している。

〔10〕かかる表現に高強度トレーニングというものの根本規定が集約されている。21世紀にHITに共鳴する我々実践者らの最高の精神的先導者の1人と言えるマーカス=レインハート、この人をマイク=メンツァーが指導するという形でHITを紹介している映像作品「Mike Mentzer's HIT Exer-cise」を見たらイメージが得られるが、HITとは骨格筋への苛烈なサディズムであり、レジスタンストレーニングの疑似的な地獄を作り出す方法であり、ジム人口の圧倒的大多数(マシンとウエイトが並ぶなかひたすら必死にカーディオをやっている気持の悪い光景もむろん含めて)が夢にも思いつかない世界なのである。今訳している本書の第19章のメンツァーの文言を見てみよう:
「〔前略〕私からすればコンテスト準備は抽象的戦争である。準備が始まるとジムは、客がウンウンやってる世俗の見世物であるのではなくなって、神話上の戦場になる。肉体が艱難辛苦する軍事精神が徳義となる。私が英雄たりえる武闘場と化す。トレの前夜に弟のレイと会っては、翌日神にカチコミをかます戦略を練っていた。軍最高指揮官の作戦を練るごとく、2人でトレ行程を検討、特定部位にどのトレ法が・どんなセットとレップスが効くかを決議する。前夜と翌日のトレ前に、2人は、攻撃的戦争的な状態をなんとか造り出してトレに臨んだのだった。〔改行〕攻撃的にジムに臨む上で、本も効き目がある。ミスター・ユニヴァース(1978年・アカプルコ)で優勝した時の「トレのパートナー」が或る意味でフリードリヒ=ニーチェだった。本番前毎日4~5時間読んでいた。ニーチェを読むと或る心境になる。激烈な〔高強度な〕哲学の激烈な〔高強度な〕著者なだけに、読むと激烈な〔高強度な〕心境になるのだ。とくに『力への意志』、読むだけで力が湧く。本書は、力溢れる意志の涵養法、決然と意志力の貫徹を説いている。ニーチェが、トレにも大会にも私に気合を入れたのだった。〔略〕レイと私で大会出場を戦闘と言って、出場者らを敵対者と言っていた。ギンギンのクラシックやロックを聴いて、眠れる戦士本能を昂揚させていた。2人とも何かしら文学か哲学を読んでいた。肝要なのはこういった気分を何とかして極端にまですすめることであり、どんな精神鍛錬でもして、トレが可能な限りの強度になるようにしていた。ゴールドジムに行くときには、敵と一戦交える兵士と同種の武者震いをしていた。〔改行〕「敵」すなわちウエイトに触れると、私は神経が緊張爆発に達して、まわりの連中が手をとめて見てきたものだ。2人で「壁をぶちぬけ」「天井まであげろ」「背中ころしてまえ」などと声を掛けてもいた。自分の番を待っていて怒りで震えることもあった。〔後略〕」(188~190頁)

〔11〕この表現はまさにpositive failureの状況を言い表している。1セット内で挙がらなくなっているというのだから「一時的」なのであり(インターバルを挟めばまた挙がるようになる)、その時点(moment)では筋はオールアウトに達しており、高強度のセットを行えているということが分かる。

〔12〕"pre-exhaustion"、「予備疲労法」という日本語も有る。マーカス=レインハート事前疲労法などは、フォーストレップス法と並んで、高強度トレーニングの代表的手法として、またこのトレーニング以外の場面でも広く知られ行われているトレーニング法であるが、本当は事前疲労セットと本番セットとの間にインターバルが1秒もあってはならないということ(本文の後段参照)を知っているであろう人、少なくとも、事前疲労セットと本番セットの2セットが1つの連続セットだと考えねばならないと知っていて可能な限りそれに近づけようとしている人はまず見受けられない。単にスクワットまたはレッグプレスの前にレッグエクステンションをやるというその順番だけが何となく知られているにすぎないようである。

〔13〕以上の記述から、ディセンディングセット法またはドロップセット法は、高強度トレーニングではないということが分かる。少なくとも、セット毎にまたは最終セットでウエイトを減少させてゆくいかなる方法もメンツァーは否定しているということが明確に分かる。

〔14〕大分類・動的収縮(dynamic contraction)の下位分類・等張性収縮(isotonic contrac-tion)の1つである短縮性収縮または求心性収縮(concentric contraction)のこと。普通物体に働きかける力ということでイメージされる筋力。ウエイトトレーニングを行う人間の大多数がこの筋力しか知らない(初級者)かまたはこの筋力をしか用いないで成功している(一流・超一流)と言えるであろう。

〔15〕大分類・静的収縮(static contraction)は等尺性収縮(isometric contraction)ともアイソメトリックとも言う。本文で既に述べているピークでの収縮において発揮される筋肉とここでは考えることができる。

〔16〕大分類・動的収縮(dynamic contraction)の下位分類・等張性収縮(isotonic contrac-tion)のもう1つである伸張性収縮または遠心性収縮(eccentric contraction)のこと。なおこの下位分類にはさらに等速性収縮または等運動性収縮(isokinetic contraction)が有る:これは例えば水泳において発揮される筋力であるが、水泳ではむしろ等張性収縮だという見方も有り、むしろ、この筋力をターゲットとしたマシンを用いることで十全に発揮される。

〔17〕このように、メンツァーにあっては、1回のトレーニングにおいて全種目ネガティブだけを行うことがあってもよいと提唱されていたのであるが、こういったスタイルなどは、私見では、ほぼ全く認知されいないかまたは実行されていないと見受けられる。

〔18〕この翻訳の底本であるメンツァーの主著〔1〕の第4章において身体に関する同一性を論じている。メンツァーの思想の中核的な論述であるが、このページにおいては訳出しない。